インタビュー ~ 堺の元気!企業紹介 ~
創業当時から変わらぬ 高品質のハサミづくりへの思い
刃物の産地として名高い堺市において、創業百年の歴史を誇るハサミメーカーの株式会社近正。果樹園芸ハサミをメインに、手工芸用ハサミなど多種多様なハサミを製造しています。かつては、鍛造や研ぎなどが職人技による手作業で進められていました。
今日、独自の機械とロボットを投入し自動化が図られるようになっても、高品質を追求する基本理念と、ほとんどの工程を自社内で一貫生産する姿勢は、創業当時から変わることなく脈々と受け継がれていると4代目の和田祥一社長は語ります。
「他社にない当社の強みは3点あると考えています。1つ目は自社開発の生産設備。当社は全工程の80%を内製化していますが、その機械を自社開発しています。なかでもハサミづくりで最も重要な熱処理と研磨に注力し、他社に真似できないハサミ作りをめざしています。
2つ目は、ユーザーのニーズに直結した製品開発力。当社の製品を使う方々を会員とする『合点倶楽部』という会員組織を設け、製品に対する生の声をうかがうとともに、試作品のモニターもお願いし、実際に使っている方が本当に求めている製品づくりをしています。
そして3つ目が人材育成ですね」。
▲「近正のハサミに代わるハサミはない」と海外からも高く評価された近正のハサミ。 果樹園芸用から事務用まで豊富なバリエーションを誇る。
ピットインになぞらえたライン段取替えでやる気づくり
人材育成については、和田社長の就任以来、さまざまな取り組みが行われています。なかでもユニークなのが、同社で「F1(エフワン)」と呼んでいるラインの段取替え。まさにF1レースのピットインのように、チームで素早く製造ラインの段取替えを行うもので、驚くのはこれまで一人で2日かかっていたのを、数人で10分台まで短縮していることです。
「段取替えでかかる時間はそのままコストであり、当社のように少量多品種を製造するメーカーが普通にやっていたのでは、いつか壁に当たってしまいます。かといってスペースも人員にも限りがあり、そこで思いついたのがF1でした」と和田社長。工具の置き場所から一人ひとりの動きまで、一切のムダを排除すべく、ビデオに録画して細かく検証を重ねてきたといいます。「チームで動いていますから、誰かが足を引っ張ることのないよう、みんなで底上げを図るようになりましたし、時間が短縮されるなかでモチベーションアップにもつながっています」と和田社長。経営効率の向上に加え、人材育成にもつながった取り組み例です。
▲人づくりで大切なのはネガティブな気持ちにさせないことだと語る和田社長。
「たとえ失敗しても、それは自分を育てるためにある」と語る。
担当外の業務も学ぶことで問題意識を高めて
社員全員が、自分の担当外の業務について学ぶ勉強会も他社に例のないものだといえます。「製造担当の社員が図面を学んだり、日頃の業務にない溶接や工作機械を学んだりすることで、『こうした方が、作業効率が上がるのでは』という問題意識を持ってほしいと考えています。それが作業改善につながるのはもちろん、社員一人ひとりのスキルアップにもなっていると思いますね」と和田社長。さらに一昨年から、「社長塾」なるものもスタートさせたとか。職場のコミュニケーションのあり方や、やる気づくりなどについて、社長自らが講師を務めて役職別や職場別に社長塾を開いているといいます。
こうしたF1や勉強会、社長塾を行う和田社長のねらいは、目先の技術だけを教えるのではなく、自分で考え自分で解決する力を身につけさせるところにあるそうです。
▲「人材づくりは将来への投資。今すぐに効果の現れるものでなくても継続することに意味がある」と語る和田社長。
▲役員を除いた社員の平均年齢は30代前半。若い技術者たちが目立つ
株式会社 近正
代表者 | 代表取締役社長 和田祥一 |
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本社 | 堺市西区築港浜寺西町2番地 |
TEL | 072-268-0118 |
設立 | 1910年3月創業 1968年12月法人設立 |
資本金 | 2,800万円 |
従業員数 | 26名 |
事業内容 | 果樹園芸鋏、手工芸鋏、事務鋏、作業用刃物の製造 |
ホームページ | http://www.chikamasa.co.jp/ |