インタビュー ~ 堺の元気!企業紹介 ~
同社技術を使った蓄圧器が日本実験棟「きぼう」に搭載
高度な科学技術が集積している国際宇宙ステーション。その日本実験棟「きぼう」の船内実験室に、株式会社エスディーシーの技術が使われた蓄圧器が搭載されています。
エスディーシーは、ネジ・ボルトのメーカー・株式会社田中の販売会社として、1988年に設立されました。現在はその役割を変え、親会社の株式会社田中が研究開発し特許を取得したプラズマ表面硬化処理技術を使った製品の製造管理を担っています。
そのエスディーシーの技術が宇宙に飛び立つことになったきっかけは、ホームページで同社のプラズマ表面硬化処理技術を知った蓄圧器メーカーからの問い合わせでした。そのメーカーの発注先である大手重工業メーカーの審査を経て採用が内定してからも実際に搭載されるまでには、サンプルの製作や数年にわたるテストなどがあり、正式に決定したのが2007年。2008年6月に打ち上げられています。
▲アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、カナダなど世界15ヶ国が参加する国際協力プロジェクト「国際宇宙ステーション」。日本は、その一部の日本実験棟「きぼう」を開発し参加している。
航空機への採用を目的に開発をスタート
同社の「SDCプラズマ表面硬化処理技術」とは、従来は不可能とされたチタン合金への浸炭処理で、金属の表面層を硬くするもの。もともとは航空機用のチタン合金ボルトを開発する過程で生まれたものです。当時社長を務めていた田中弘一会長は「1984年にアメリカに現地法人を設立。そこで大手航空機メーカーから焼付きしないチタン合金ボルトのニーズがあることを聞き、その開発をスタートさせました。大阪府立産業技術総合研究所内に試作研究用のプラズマ浸炭炉を入れて研究開発を進め、1993年に大阪府と共同で特許を出願しました」と当時を振り返ります。
その後、量産用の大型炉も導入しましたが、どうにも不満足で、ついに同社オリジナルの新型炉まで開発。プラズマ表面硬化処理技術は装置でも特許を取得しています。
同技術を施した製品の特長は、まず良好な電気伝導性。これは落雷対策が重要な航空機に大変有効です。そして焼付き防止はもちろん、非常に優れた耐摩耗性と耐食性、さらには疲労強度の向上があげられます。
▲航空機業界でますます需要の高まるCFRP締結用チタン合金ボルト
▲優秀な人材も企業の知的財産として重視する同社では、技術社員を大学院に進ませたことも。博士論文では、同社の特許技術がまとめられた。
国の戦略的基盤技術と認定今後はライセンス販売を
ところが、ずっとアプローチしている大手航空機メーカーはなかなか採用を決めません。世界シェア70%のアメリカのネジメーカーが自社だけに特許を売ってほしいと申し入れてきましたが断ったといいます。「日本で誕生した技術をそのまま売り渡したくなかった」と田中会長。
すると2008年、『きぼう』での実績が評価され、同技術が国の『戦略的基盤技術高度化支援事業』に採択されました。これにより研究開発費が援助されるばかりでなく、同社の技術がいかに信頼に足る高度で重要な技術であるかの国のお墨付きをいただいたようなもの。田中会長も「これを後ろ盾に航空機メーカーへのアプローチに弾みがつけられる」と語ります。
▲「祖父の代から4代続くネジメーカーとして技術を究めたい。内から突き上げるその熱い思いだけでここまでやってきた」と語る田中会長。
▲2008年6月の打ち上げに搭乗した星出宇宙飛行士によって、参画した人々の寄せ書きをCDにまとめ搭載された。エスディーシーの寄せ書きも入れられている。
エスディーシーでは今後、「SDCプラズマ表面硬化処理技術」の特許ライセンス販売を進めていく予定です。「航空機メーカーにしても、うちでしか製造できないボルトはリスクが高くて採用できないでしょう?それにこの技術を使ったボルトが標準規格になった方が市場は大きくなります。今後は燃料電池用セパレータ材料への活用などを視野に、国から紹介された電機産業や自動車業界へと事業を広げていきたい」と語る田中会長。航空機業界への参入という高いハードルを初めに設け、それに真摯に取り組んできたからこそ、今後の裾野の広がりが期待されます。
▲取引先の立場に立った営業のあり方や、社員全員の提案力の向上など、人材育成で強いリーダーシップを発揮する田中信一社長。
▲社員研修会風景
株式会社エスディーシー
代表者 | 代表取締役社長 田中 信一 |
---|---|
本社 | 堺市堺区神南辺町4-132 テクノフロンティア堺B-1 |
TEL | 072-224-7477 |
設立 | 1988年設立 |
資本金 | 1億2,765万円 |
従業員数 | 4名 |
事業内容 | プラズマ表面硬化処理を施したSDCブランド製品の製造、SDCプラズマ表面硬化処理受託加工など |
ホームページ | http://www.sdc-tanaka.co.jp/ |