インタビュー ~ 堺の元気!企業紹介 ~

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独自の発想で手術器具を開発 株式会社樋原製作所 代表取締役社長 樋原 壽一

下請けからの脱却を図って自社製品の開発へ

 発動機や船舶などを生産・販売する大手メーカーのもと、船舶用ギヤポンプ、油圧バルブなどの製造専門工場として、1960年に創業した株式会社樋原製作所。集塵機用ロータリーバルブや、立体駐車場などに使われる減速機のギヤードモーター部品などの組込技術を得意とするOEM生産に携わってきましたが、オイルショックや円高不況などの時代の波を受けて下請け企業からの脱却を図り、コスト削減につながる薄肉加工といった自社技術を磨いてきた企業です。その技術力が高く評価され、半導体製造関連機器などを製造・販売するメーカーと共同で、多関節ロボットの部品開発などを多く手がけています。
 樋原壽一社長は「他社がやりたがらない、開発期間が短く、高精度が求められる案件に率先して取り組むことで、当社の技術力は高められてきたと考えています。しかし、リーマンショックなどで外部環境が悪化すると、せっかく開発したものづくり技術も海外に流出するなど、当社もその影響から免れることができず、自社製品の開発に取り組むべきだと決意したのです」と語っています。そこで着目したのが、医療・福祉産業への進出でした。


一人の医師の発した言葉からこれまでにない持針器を開発

 2015年に開催された医療総合展示会「メディカルジャパン」で、同社が出品した心臓外科用持針器は、多くの医療関係者に注目されました。
 これまでの鋏型やピンセット型の持針器は、施術者が手首を回して90度方向にしか運針できず、そのために施術者自身が身体をよじったり、つま先立ちしたりするなど、負担が大きかったといいます。そこで同社が開発したのは、垂直方向にも動かせる機構を組み込んだ持針器です。
 「きっかけは東京大学の本村昇医師が講演でこういった手術器具が欲しいと話されたことでした。補助金を受けて取り組んだ企業もあったようですが失敗し、大阪商工会議所を介して弊社に声がかかったのです」と樋原社長。翌月には早速アイデアを持って東大を訪ね、そこでの意見交換を踏まえて、2ヶ月後に試作品を完成。その2ヶ月後の人工臓器学会で展示したところ、そうそうたる大学病院の外科医で構成される評価委員会から高い評価を得ています。
 開発のポイントは「先端部の小さな機構に細い針を掴んで垂直に動かすために必要な約10㎏の把持力を持たせることでした」と吉原隆技術部長。実用化に向けては、針の大きさで先端部を変えたり、臓器に直接ふれる部分を使い捨てたりできるように、取り替え可能なディスポーザブル化をプラスチックで実現できないかということや、さらなる軽量化が課題として残されています。吉原部長はこうした課題をクリアしたうえで、さらに施術者の使いやすさや内視鏡手術での患者の負担軽減を追求して、グリップ部のオーダーメイドや、軸部の直径を9㎜に抑えることを目指すと語っています。


点滴ポールスタンドをワンタッチで車椅子に装着

 樋原製作所では、医療関連ではこの他にも、歯科技工粉末飛散防止ケースや、点滴をかけるフック部分がポールの中に収納できる「点滴ポールスタンド」、点滴スタンドを車椅子に連結する「点滴ポールキャッチャー」を自社開発しています。なかでも「点滴ポールキャッチャー」は、これまで大変面倒だった車椅子への点滴スタンドの固定作業を改善し、ワンタッチレバーで簡単に連結できるというもので、専用のポールスタンドを購入せずとも、既存のものがそのまま使える点も、コスト面での優位性を誇っています。
 「既成のネットワークができあがっているなかに、中小企業が新規で参入するのはなかなか困難なことですが、オリジナルの発想や技術力で課題解決型のものづくりができればチャンスはあります。ただ、高い安全性、信頼性の求められる医療関連は多額の開発資金がかかるもの。アメリカでは、ベンチャー企業であっても有望であれば製品化までを支える国のシステムがあると聞きます。今後、『医工連携』を進めるにあたっては、日本でもそうした支援策を拡充していただければと思いますね。私たちも実用化に向けての資金調達のため、パートナー企業探しを始めるところです」と樋原社長。その苦労をいとわない原動力は「現場の医師や看護師たちに喜ばれること。それが世の中の役に立てることなら、何でもやらせてもらいたいという気持ちを新たにする」と語っていました。


▲付け外しの必要のない「点滴ポールスタンド」は、ポールをつけたまま折りたためるほか、フック部分がポール内に収納できる。ポールを上下する際に手を離しても急落下しない。

「できない」という考えを持たない。自社の企画力と技術力に誇りと自信

「日本の家電メーカーも次々と縮小され、弊社もその影響を受けましたが、一方で、そうした企業から流出される技術者を招き入れ、指導を受けた結果、短期間で飛躍的に生産性を高めることができました。弊社に持ち込まれた課題についても、私は『できない』という考えを持ちません。どんなに困難でも『どうすれば実現できるだろうか』と何十ステップでも試作を重ねるだけです」と語る樋原社長の言葉に、自社の技術力への揺るぎない自信を感じました。


株式会社樋原製作所

代表者名代表取締役 樋原 壽一
本社堺市南区大庭寺611-3
TEL072-293-1111
設立1960年創業 1962年設立
資本金1,000万円
従業員数10名
事業内容介護・医療機器、半導体・液晶製造装置、包装機器の開発・製造、精密機械の試作・開発など
ホームページ http://www.hibara.jp/

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