インタビュー ~ 堺の元気!企業紹介 ~
国内産鷹の爪の純粋種を厳格に守り伝えて
昭和30年代まで、堺市の福田一帯が唐辛子の一品種「鷹の爪」の産地だったことは、意外と知られていないことでしょう。当時、収穫時期には、その一帯が「鷹の爪」の実で赤く染まったように見えたといいます。収穫された鷹の爪を引き取り、和風香辛料に加工して業務向けに卸していたのが、創業120年近くの歴史を誇る株式会社やまつ辻田(当時は辻田商店)です。
「鷹の爪」はその小ささと実のつけ方から摘み取りに大変な人手を要するため、採算に合わないとほとんどの農家が栽培をやめてしまいました。今日、市場に出回っている赤唐辛子の99%が外国産だといいます。そうしたなか、やまつ辻田は、国内産鷹の爪を厳格に守り続けてきました。
「何百種とある赤唐辛子が何でも『鷹の爪』と呼ばれていることが我慢なりませんでした。すぐに交配の進む唐辛子にあって、国内産鷹の爪の純粋種を継承しているのは全国で当社だけです。一度何かと交配されたものは、もはや元の品種とは別物で、純粋種鷹の爪とは、実が上向きに一つずつしか付かない小ぶりな一品種のみを指し、それを作り続けながら守ってきたことが、当社の強みだと思っています」と辻田浩之社長。その強い言葉から、鷹の爪に対する並々ならぬ愛情が感じられました。今では辻田社長が自ら足を運び、契約した全国各所の農家で「鷹の爪」純粋種が栽培されています。
▲与謝野晶子の詩歌集をパッケージにデザインした『さかい利晶の杜』特別限定品。
山朝倉山椒や実生柚子など知られざる魅力にいち早く注目
辻田社長のこだわりは、鷹の爪だけでなく、香り高い山朝倉山椒(やまあさくらざんしょう)や、種から生長させた実生柚子(みしょうゆず)などにも及びます。
「七味唐辛子というのは、メインの食材ではないし、使う量もそう多くない。そのために、原材料に何が使われているかが見えにくい製品です。大切なのは、『自分の子どもに食べさせられるのか』という感性。だから、私はすべての原材料において、生産者の顔の見える安全で、信頼できる最高のものを選定しています。青海苔は、高知県産の最高品質の糸すじ青海苔ですし、胡麻はオーガニックで生産された極上のトルコ産。最近、外国の料理人たちにも注目される山椒や、これまで誰に知られることのなかった実生柚子の魅力を、その楽しみ方を含めていち早く訴えてきたという自負があります」と辻田社長。和風香辛料の伝道師ともいえる役割を果たすべく、全国の取り扱い百貨店における催事などで、エンドユーザーと直接交流することが増えているようです。
▲「顔が見える」ことを大切に、辻田社長は鷹の爪や山朝倉山椒、実生柚子の生産者と直接つながり、摘み取りなどの手伝いにも駆けつけている。
和風香辛料に真摯に向き合う王道の経営が長寿の秘訣
100年を超えて事業を継承できた秘訣についてうかがうと、7段の腕前を持つ剣道に例えて、「この技を自分の得意技にと決めたら、それをとことん極めろ、小細工をせずに王道を行けと門下生に指導しています。事業についても、ただただ誠実に、真摯に和風香辛料に向き合ってきただけです」と辻田社長。その頑なに本物を追求してきた姿勢が評価され、誰もが知る有名うどん店やうなぎ店などで使われていたり、老舗料亭のギフト商品や高級佃煮に添えられていたりするほか、老舗高級ホテルとのコラボで、辻田の名を冠する山椒入りのパンが発売されたこともありました。最近では、海外のホテルやレストランからの引き合いも増え、食品安全の国際規格「FSSC22000」の取得を目指したいと語っています。
次の100年に向けて「私が広げてきたものを、次の世代がどこかだけ切り取って継承しても成立するよう、その土台を作っておきたい」と辻田社長。そして、その一つが農業のようです。「原材料の生産にも携わって、香辛料づくりを自社で完結できれば」と、すでに自社農園での鷹の爪や山朝倉山椒の栽培を試験的に始めています。辻田社長の和風香辛料への熱い思いは、まだまだ冷めることを知らないようです。
▲山朝倉山椒は、独特の香りを壊さないよう御嶽山の溶岩石で作られた石臼でじっくり挽く。
▲平賀源内が72品種の唐辛子を紹介している著書『蕃椒譜』の中で「食するには、これを第一とすべし」と絶賛した「鷹の爪」。
株式会社やまつ辻田
代表者名 | 代表取締役 辻田 浩之 |
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本社 | 堺市中区福田280 |
TEL | 072-236-1223 |
設立 | 1902年創業 |
資本金 | 3,000万円 |
従業員数 | 30名 |
事業内容 | 和風香辛料の製造・販売 |
ホームページ | http://www.yamatsu-tsujita.com/ |