インタビュー ~ 堺の元気!企業紹介 ~
道具としての衣服への関心からアウトドアやスポーツ用品の開発へ
企画からデザイン、パターン(型紙)、仕様書の作成、素材の選定など細かく分業化されているアパレル業界において、製品開発のプロセスのすべてを見渡し、ディレクションできる人材は少ないといいます。
CIRCの代表・宮本祐史さんは、「アイデアはあるけれど、製品化するための設計や製造ができない」といった企業に向けての、繊維製品の開発支援を事業として2018年に創業。売上げや価格の設定といった全体の設計から、個々の製品のデザイン、製図、評価試験など、一連の開発プロセスを踏まえた立案に加えて、各工程の実務までを担っています。
繊維製品といっても、フォーマルウエアからカジュアルウエアまで、さまざまな専門分野がありますが、宮本さんが主眼に置いているのは「機能性という普遍的な要素を軸足に、長く経験してきたスポーツ分野の知識と経験を活かした開発」です。
もともと学生時代から、スポーツウエアなど道具としての衣服に関心を持っていたという宮本さん。海外のメーカーで、オートバイや釣りなどのアウトドアで雨や風などから身を守るためのウエアの開発に携わったのち、転職した日本の大手アウトドアスポーツメーカーでは、材料の調達・購買部門を経て、自転車のプロ選手のための空気抵抗の小さいウエアから、長時間自転車に乗る一般ユーザーのための耐久性や快適性を備えたウエアの開発などを担当してきました。製品化のプロセスの川上から川下までを実務として経験していることが、宮本さんの強みになっています。
▲お得意先は、社内に繊維に詳しい開発部隊を持たない企業がほとんど。開発計画の作成から提案を行う。
科学的裏付け、データを重視した機能性製品の開発を得意として
デザインだけ、パターンだけという案件も請け負っていますが、やはり宮本さんの一番のアピールポイントは、企画から製造までをワンストップで対応できることでしょう。「よくコンサルタントと混同されるんですが、地図を広げて目指す方向を指し示すだけでなく、私は舵も切りますし、船も漕ぎますというスタンスでお手伝いしています」と語っています。
これまでの実績としては、得意のアウトドア用品をはじめ、ワークウエアやメディカル機器までを手がけています。なかでも強く印象に残っているのは、創業してまもなく、初めて出展した展示会で、隣り合った電子基板メーカーとの出会いでした。異事業として開発中だった製品の一部で繊維を使っていたことから、製品の効果を検証したレポートを自主的に送ったところ、1年後に新たな製品開発の支援依頼があったといいます。
「全くの新規事業だったため、社内にそれを担える人材がいなかったようで、このように、繊維といってもウエアそのものでなく、例えばロボットアームの関節部分のように、繊維が使われている製品の開発なら関わるチャンスがあると考えています」と宮本さん。
それは前職から、科学的根拠、データを重視した開発手法を得意としてきたことと無関係ではないでしょう。それぞれに感度や体型が異なったり、食事の前か後かでも状況が変わったりする「人」という曖昧な存在が対象なだけに、この評価試験の設計、そして得意先企業とのすり合わせもまた重要な業務です。社内にも評価試験用の機材を備え、今後は動作性、快適性、温度などを複合的に試験できる計測機材を拡充させたいと考えています。
▲機能性ウエアの開発で重要な科学的データも、「人」が対象なだけに、どのような評価工程を経るかの打ち合わせを入念に行う。
使う人の目線を大切に考えたものづくりにポテンシャルを感じて
これまでにあまりなかったビジネスモデルゆえか、創業当時は得意先の獲得に苦労したこともあったとか。事業所を置くさかい新事業創造センター(S-Cube)や堺市産業振興センターからの紹介などで、徐々に得意先を広げつつあるところだそうですが、その存在が認知されれば、社内に専属の開発部隊を持てない中堅中小企業や、これから異業種に参入しようとしている企業にはとても心強いサポーターであり、じっくりと深く関わる得意先も増えてきたようです。
最近の例では、ワークウエアの企画から行うメーカーの依頼で、ある企業の妊娠中の女性社員のためのユニフォームのデザイン・設計がありました。お腹に優しい生地や縫製に配慮するのはもちろん、少しずつ大きくなっていくお腹にあわせてジャケットの裾を広げることができるデザインになっており、少しでもシルエットを美しく見せたい女性への心遣いを感じます。
「製品を売るためのプロモーションでは、快適ですといった謳い文句を使いますが、私はいつも、それは誰にとって、どのように快適なんだ? と疑ってかかります。例えば、吸水性が高いというのは、アウトドアやスポーツをする人には、汗などを素早く吸って肌に不快感がないというメリットがありますが、女性には、脇や背中に汗をかいた跡が見えたり、濡れた繊維で透けてしまったりして、むしろデメリットに。高い機能性を追求する一方で、ユーザーの目線、使われる環境にまで細やかに心を配ることが重要で、そこに日本のものづくりの強いポテンシャルがあると考えています」と宮本さん。
興味深いのは、「モノからコトへ」ではなく、「モノもコトも」だと語っていることです。いわゆる、人々の消費行動が商品というモノの消費から、グルメや趣味、体験といったコトの消費にシフトしているといわれることですが、宮本さんは「機能やデザインのすぐれたモノ(商品)があるから、良いコト(アクティビティーなど)を生み出すのであって、モノをないがしろにしていいということにはならない」と語っています。衰退産業と言われだして久しい繊維業界ですが、宮本さんのビジネスからは、新たな経営のスタイルへの期待が広がります。
▲求められる機能を実現するためには、素材選びも重要なポイントの一つ。
成功のポイント
素材メーカー、縫製工場、商社などは自社の担当分野には詳しいが新たな機能・用途の製品を開発するには、幅広い知見を持つ宮本代表のような取りまとめ役が必要です。その上データに基づいた科学的根拠をベースにしていることが顧客からの信頼獲得につながっています。
CIRC(シルク)
代表者名 | 代表 宮本 祐史 |
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本社 | 堺市北区長曽根町130-42 さかい新事業創造センター313号 |
TEL | 072-247-9855 |
設立 | 2018年設立 |
事業内容 | 繊維製品の開発支援 |
ホームページ | https://www.circ.jp |