インタビュー ~ 堺の元気!企業紹介 ~
整骨院の特殊なレセプト作成にレセコンの潜在的需要を見出して
創業前は薬のプロパー会社の営業担当として、整骨院などに消炎鎮痛剤などを卸していたという株式会社ワールドの織田明会長が、初めて整骨院向けレセプトコンピュータシステム(以下、レセコン)と出会ったのは1984年のことでした。医療施設が健康保険組合などの支払い機関に診療報酬を請求するためのレセプト(診療報酬明細書)を作成するレセコンの普及率は今や100%近くですが、当時は病院や医院においてもまだまだ一般的ではありませんでした。
健康保険組合などに医療費を直接請求できる医師と異なり、療養費を患者の代理で受領するという形の柔道整復師は、事前に患者の自筆サインをレセプトにもらわなければなりません。紙のレセプトをデジタル化できれば、事務処理の簡素化のメリットは大きいだろうとレセコンに目をつけた織田会長は、さっそく業界の現況と大阪での普及率などを調べました。1985年当時、柔道整復師は全国で約3千人、大阪府下で約700人。その中でレセコンを導入しているのは30人だったといいます。
「なぜ普及が進まないのか調べると、当時あるレセコンメーカーが発売したばかりのオフィスコンピュータシステムが400万円、5年リース契約で月7万円半ばでした。1ヶ月100枚のレセプト作成で、1枚あたりのコストが700円強、手が出ないのが実情でした。そこで約半額まで価格を抑えることができたならビジネスチャンスがあるのではと考えたのです」。
▲情報システム部では、プログラムの開発や納品したレセコンの保守業務も手掛ける。
365日24時間のサポート体制で顧客の絶大な信頼を獲得
資金援助してくれるという整骨院経営者との共同経営で会社を設立。すぐにソフトウエア開発会社にシステム開発を依頼するとともに、織田会長自身も整骨院で実際のレセプト作成に携わり、保険請求の実務を一から学んだといいます。
1987年9月に、大阪府柔道整復師協同組合主催の展示会が開かれるというので、レセコンの開発をそれに間に合わせました。「ところが、展示会には当社以外に8社のレセコンメーカーが、同じように値ごろ感を訴求した製品を出展してきたのです。なかでも画期的だったのが、レセプトにバーコードを自動印刷する機能を備えたもので、多くの人の注目を集めていました」。
価格競争に陥ることだけは絶対に避けたい織田会長は、他社といかに差別化を図るかを模索し始めます。共同経営を解消した後に設立した(株)ワールド情報システム(現在のワールド)で、バーコードに対抗できるものとしてOCR(文字認識)※自動印刷システムを開発。あわせて始めたのが365日24時間のサポート体制です。「レセプト作成は、月初の数日に作業が集中します。当時、システムがまだ安定していないこともありましたが、ユーザーもコンピュータに不慣れで、マシンにトラブルがあったりすると大変困られました。それを全面的にサポートすることにしたのです」。
業務終了後の電話は留守録で受付け、ポケベルで呼び出された社員が折り返すというアナログなものでしたが、他社はどこも真似ができず、ユーザーからは「価格は高くても、いつでも対応してくれる」という高評価を得て、信頼のワールドブランドを定着させることになりました。
▲サポート部では、システムの納品および操作説明のほか、パソコンやプリンターの貸出も行う。
※OCR(文字認識)...手書きや印刷された文字をカメラなどで読み取り、コンピュータが利用できるデジタルの文字コードに変換する技術
脱レセコン屋を宣言 開業コンサルティング事業へ
営業エリアを大阪府外に拡大しながら、1992年には業界初となる個人契約者向けシステムを開発。それまでに得たさまざまな情報、ノウハウを活かして、開業を目指す個人向けサービスを強化しました。「"脱レセコン屋宣言"です。資金調達のための事業計画書の作成や各種行政への申請手続きなど、開業までの全行程をサポートするコンサルティング事業に注力することにしました。超高齢社会を迎えて医療費の高騰という社会情勢から専門学校の規制緩和があり、全国に養成機関が急増し、保険請求などの講義も行うようになりました」。
今日の柔道整復師の数は全国で5万人を超え、大阪府でも7千人近く。現在は、開業条件に実務経験が求められるようになったため、開業のペースは落ちているということですが、まだまだ市場に余地があると織田会長は語っています。「病院や医院向けのレセコン市場は大きいだけに大企業が参入していて太刀打ちできませんが、ニッチな整骨院向けレセコン市場だったからこそ戦えました。そして当社の場合、ニッチに関係なく、常に顧客のお困りごとに耳を傾け、その解決を図ることに注力してきました。それが現在の成功につながっていると思います」。
7年前に売り切りのリース契約から月額契約に変え、定期的に情報発信するなど、顧客との関係をより深めてきたワールド。原点とも言えるレセコンも進化を続け、「自主審査」機能を備えたレセプトシステム「れ・セボーン Neo」を販売しています。今後は、2026年以降の完全デジタル化にあわせたクラウドシステムの開発と、マイナンバーカードとの一体化が進められる保険証への対応が急務だと語っていました。
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左:織田 明 会長
右:西村 陽介 社長
成功のポイント
■医療機関のレセプトシステムを整骨院専用に特化して作り上げ、ニッチな業界で価格競争に巻き込まれることなく、顧客に寄り添うサポートとサービスで勝負してきたワールド。また、業界初となる柔道整復師養成学校への講師の派遣など、業界発展に貢献する理念が同社を支えています。
株式会社ワールド
代表者名 | 代表取締役 西村 陽介 |
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本社 | 堺市北区北花田町3-27-26 |
TEL | 072-255-4743 |
設立 | 1986年創業 1989年設立 |
資本金 | 1,000万円 |
従業員数 | 21名 |
事業内容 | 整骨院専用レセプトシステム「れ・セボーン Neo」の開発・販売、請求団体入金管理運用システム、保険請求講義(講師出向)、高度管理医療機器等販売・賃貸、整骨院への就職支援など |
ホームページ | https://www.world-sys.com/ |