インタビュー ~ 堺の元気!企業紹介 ~
同業者の廃業が相次ぐなかあえて未経験の若い人材を採用
1916年の創業から百余年。鋳物方案の策定から鋳型づくり、金属の溶解、鋳込み、仕上げまでの全工程を一貫受託できることを強みとする不二合金株式会社では、船舶の汽笛や号鐘、冷却装置の部品などの製造で長年に培った豊富な実績を背景として、技術的に難しい材質や複雑な形状の鋳造にも取り組み、高い評価を得ています。
さまざまな加工技術の中でも鋳造でしか製造できないものがあり、一定の需要が確保されているものの、昨今、後継者不在や人材不足などを理由に同業者の廃業が相次いでいるといいます。遠藤和男社長は「そうした企業の中には、特殊な技術を持ったところもあり、それを絶やすのはもったいない。当社では廃業前に職人を派遣して、その技術の継承に努めています」と語っていました。
かくいう不二合金の職人たちの平均年齢は30代前半、若い人材が育っています。その理由を遠藤社長に尋ねました。
「まず、未経験でも若い人たちを採用しています。他社で活躍されていたベテランの職人は、長年の自分のやり方を変えることが難しいので、一から教える方が育てやすいですね」。
今では珍しくなくなった動画投稿サービスを15年前から利用し、映像で鋳造の工程を紹介しているのも、自社の技術力をアピールすることに加え、鋳造の工程をわかりやすく伝えるためです。
さらに「採用しても、実際に働いてみたら想像していたのと違ったということはよくある話なので、約2ヶ月間の見習い期間を設けています。その間に基本的なことを教えますが、そこからさらに自分なりに工夫してやってみようかと鋳物に面白みを感じてくれた人を本採用しています。本人もその期間に、一生やっていける仕事かどうか判断してもらえればと思っています」。
▲どういった方案で進めるか、自分たちで考えることを大切にしている。
一人に一冊ずつのノート今日習得したことを記録
教え方も昔の『見て覚える』ではなく、できるだけ丁寧に指導していると遠藤社長。その時に活用しているのが一冊のノートだそうです。発案したのは、遠藤社長の二男である遠藤篤志取締役工場長でした。
「職人全員にノートを持たせ、新しく習得した技術や気がついたことなどをその場ですぐに記録させています。指導者がそのノートの中身をチェックしたり添削したりすることはありません。書き方も自由。あくまでも新しく学んだことをすぐに記録する習慣づけを行っています。ものづくりの技術というのは、一つひとつの積み重ねなので、前に失敗したことを繰り返さないためにも記録しておくことは大切です。そして、新しい案件が来ると、リーダーを中心に何人かのメンバーで、どういう方案で進めていくか自分たちで考えさせています。その時に役立つのが各自のノートで、これまでの事例からアイデアを出し合ったりしています。特に勉強会という時間を設けずとも、こうした場で、自分たちで考えることやノウハウを共有することが新たな学びにつながっていると思いますね」。
デジタル時代に手書きのノートとは、時流に逆らっているようにも思えますが、すぐその場で自分の手で書き留めることに意識付けの効果があるのでしょう。不良率は大きく下がったそうです。
また興味深いのは、同社が15年前から受け入れているベトナム人技能実習生の間で、帰国する実習生が自分の持っているノートを同じベトナム人実習生に残して帰っているとか。彼らの間でも習得した技術を大切なものとして受け継いでいるようです。
▲工場の機械整備を進めて、人的負担を軽減し、達成感や連帯感が感じられる職場作りを心掛けている。
技能の高さを公的に認定する鋳造技能士の取得が働き甲斐に
以前は職人たちを機械展示会などに参加させ、自分たちの作った部品がどういったところで使われているのか、自分たちの技術が得意先企業にどう評価されているのかを直に体感できる場を作っていたと遠藤社長。再び、そうした機会を作っていきたいと話しています。
そして、若手職人たちの働き甲斐につながる取り組みとして遠藤社長が熱心に進めているのが国家検定の鋳造技能士の取得です。
「昔は注目された資格でしたが、資格がなくても仕事はできるため、最近は関心を持つ会社も少なくなりました。私は職人たちの技能の高さを公的に認定してもらうことが大切だと考えており、その技能に応じた製品の価格設定を行い、給与へも反映することが、健全な経営の姿だと思っています」と遠藤社長。同社では今後、鋳造技術でしか実現できない複雑な形状の加工に特化していくことで、鋳物づくりの価値を高めていきたいと考えています。その一つの手段として、新しく鋳造用砂型3Dプリンターを導入。高精度な鋳物づくりに取り組んでいます。将来的には、3Dプリンターの台数を増やし、鋳型の製造・販売という新たな事業の展開も構想しているとか。
これまで銅合金の鋳造を得意としてきた同社ですが、銅の需要が高まり入手しにくくなっていることやニーズの多様化から、取り扱う材質もステンレスやアルミニウムなどに拡大。他社との差別化を実現してきました。
「当社が長年に蓄積してきた豊富な実績は財産。これをデータベース化して、次世代へ技術を着実に継承していきたい」と語っています。
▲3Dプリンターの導入には、二男の遠藤篤志取締役工場長と営業を担う三男の遠藤恵士取締役営業部長の次代の経営陣が大きな役割を果たしている。
成功のポイント
社長のリーダーシップのもと、ものづくり現場のマネジメントを担う2人の息子さんがそれぞれ役割を分担。若手を積極的に活用するとともにDX化を進めデジタル技術で生産の効率化を推進する社風を醸成し、ものづくり現場の革新を推進。これが同社の躍動の源となっています。
不二合金株式会社
代表者名 | 代表取締役 遠藤 和男 |
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本社 | 堺市西区浜寺船尾町東1-5 |
TEL | 072-262-9440 |
設立 | 1916年創業 1953年設立 |
資本金 | 1,000万円 |
従業員数 | 15名 |
事業内容 | 非鉄金属鋳物製造および販売 |
ホームページ | http://www.fujigokin.com/ |